寓話で学ぶガバナンス|第9話『タヌキ課長の緊急上程』

【寓話で学ぶガバナンス】シリーズとは?
森の仲間たちが経営する「モリモリ商会」を舞台に、フクロウ監査役と共に“会社の気になること”を考えていくシリーズです。ガバナンスの知識を、物語のようにやさしく学べる内容です。

――この森の奥で、モリモリ商会が創業したのは、もう10年も前のこと。
今日もフクロウ監査役が、会社のあちこちで起こる“気になること”を見つけては、そっと耳をすませています。


タヌキ課長

最後に、ひとつ追加の議題があります!

タヌキ課長が突然、立ち上がった。

会議終盤。全議題が終わりかけたそのタイミングで、彼は手元のメモを見ながら続けた。

タヌキ課長

急ぎ進めたい取引先との契約がありまして。上層部の判断をいただければ、すぐに動けます。

フクロウ監査役

資料は?

フクロウ監査役が静かに問う。

タヌキ課長

申し訳ありません。まだ草案段階でして、正式な契約書は後日整えます。ただ、時間がありません。

キツネ社長

どのような内容か、口頭で説明を。

とキツネ社長が促す。

タヌキ課長は早口で、取引の概要や提携メリットを語った。が、リスクや金額の詳細には触れなかった。

タヌキ課長

それでは、内容は概ね了承ということで……?

曖昧な空気が流れる中、リス取締役がそっと手を上げた。

リス取締役

あの……念のため、資料を見てからでもいいのでは?

タヌキ課長は言葉を詰まらせ、キツネ社長が代わって答えた。

キツネ社長

もちろん、最終決定は後日でも構わない。だが、方針だけでも確認しておきたいんだ。ね、フクロウ監査役?

フクロウ監査役はしばし黙ってから口を開いた。

フクロウ監査役

私は、“今ここで決める”理由に、説得力を感じませんでした。

そのまま会議は終了したが、タヌキ課長の顔には不満がにじんでいた。


翌日、カメ副社長が資料を確認したところ、重要な契約条項が抜け落ちていたことが判明した。

それを見て、フクロウ監査役は静かに日誌にこう記した。

フクロウ監査役

急ぐべきは、議案ではなく“理解”である。
その順番を間違えたとき、組織は迷子になるのだ。

  

この話から学べること

「資料なしの議案」は、ガバナンスの警報
正式な資料もリスク説明もないまま「緊急だから」と出される議案は、ガバナンス軽視の兆候です。意思決定の前提となる情報が欠けていれば、判断は感覚や空気に流されやすくなります。

■“今ここで決める理由”を問えるか
会議では、結論よりも「なぜ今このタイミングか」の説明責任が重要です。理解が不十分なまま方針だけ決めることは、“追認の連鎖”を招きます。特に監査役や社外取締役は、「議論の前提が整っているか」を丁寧に確認すべき立場です。

拙速な合意は“迷子”の始まり
この話の結末にあるように、急いで決めること自体が問題なのではなく、「理解が追いつかないままの合意」が組織を迷わせます。資料提出が遅れても、適切な検討時間を設ける姿勢こそが、長期的な信頼を守るのです。

最終更新:2025年8月11日

出典の考え方は 出典ポリシー、改訂履歴は こちら をご覧ください。

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
目次