【寓話で学ぶガバナンス】シリーズとは?
森の仲間たちが経営する「モリモリ商会」を舞台に、フクロウ監査役と共に“会社の気になること”を考えていくシリーズです。ガバナンスの知識を、物語のようにやさしく学べる内容です。
――この森の奥で、モリモリ商会が創業したのは、もう10年も前のこと。
今日もフクロウ監査役が、会社のあちこちで起こる“気になること”を見つけては、そっと耳をすませています。

最後に、ひとつ追加の議題があります!
タヌキ課長が突然、立ち上がった。
会議終盤。全議題が終わりかけたそのタイミングで、彼は手元のメモを見ながら続けた。



急ぎ進めたい取引先との契約がありまして。上層部の判断をいただければ、すぐに動けます。



資料は?
フクロウ監査役が静かに問う。



申し訳ありません。まだ草案段階でして、正式な契約書は後日整えます。ただ、時間がありません。



どのような内容か、口頭で説明を。
とキツネ社長が促す。
タヌキ課長は早口で、取引の概要や提携メリットを語った。が、リスクや金額の詳細には触れなかった。



それでは、内容は概ね了承ということで……?
曖昧な空気が流れる中、リス取締役がそっと手を上げた。



あの……念のため、資料を見てからでもいいのでは?
タヌキ課長は言葉を詰まらせ、キツネ社長が代わって答えた。



もちろん、最終決定は後日でも構わない。だが、方針だけでも確認しておきたいんだ。ね、フクロウ監査役?
フクロウ監査役はしばし黙ってから口を開いた。



私は、“今ここで決める”理由に、説得力を感じませんでした。
そのまま会議は終了したが、タヌキ課長の顔には不満がにじんでいた。
翌日、カメ副社長が資料を確認したところ、重要な契約条項が抜け落ちていたことが判明した。
それを見て、フクロウ監査役は静かに日誌にこう記した。



急ぐべきは、議案ではなく“理解”である。
その順番を間違えたとき、組織は迷子になるのだ。
■「資料なしの議案」は、ガバナンスの警報
正式な資料もリスク説明もないまま「緊急だから」と出される議案は、ガバナンス軽視の兆候です。意思決定の前提となる情報が欠けていれば、判断は感覚や空気に流されやすくなります。
■“今ここで決める理由”を問えるか
会議では、結論よりも「なぜ今このタイミングか」の説明責任が重要です。理解が不十分なまま方針だけ決めることは、“追認の連鎖”を招きます。特に監査役や社外取締役は、「議論の前提が整っているか」を丁寧に確認すべき立場です。
■拙速な合意は“迷子”の始まり
この話の結末にあるように、急いで決めること自体が問題なのではなく、「理解が追いつかないままの合意」が組織を迷わせます。資料提出が遅れても、適切な検討時間を設ける姿勢こそが、長期的な信頼を守るのです。



