【寓話で学ぶガバナンス】シリーズとは?
森の仲間たちが経営する「モリモリ商会」を舞台に、フクロウ監査役と共に“会社の気になること”を考えていくシリーズです。ガバナンスの知識を、物語のようにやさしく学べる内容です。
――この森の奥で、モリモリ商会が創業したのは、もう10年も前のこと。
今日もフクロウ監査役が、会社のあちこちで起こる“気になること”を見つけては、そっと耳をすませています。

では、財務戦略についてはこの方針でよろしいですね
カメ副社長の問いかけに、会議室の空気がわずかに緊張した。
今期の資金調達方針。大規模な借入を伴うが、将来の成長に備えるための一手だった。
各取締役がうなずく中、コウモリCFOが一言添えた。



はい。市場環境も見据えれば、今が動きどきだと判断しています。問題ありません
キツネ社長も満足そうに頷いた。



よし、では資料通り進めよう
それから数日後――



……フクロウさん。ちょっと気になることがあって
木漏れ日の差すバルコニーで、リス取締役が話しかけてきた。



昨日、CFOのコウモリさんが社長と話しているのをたまたま聞いてしまって……



どんな話だったのかい?



“今回の借入はかなり危ない橋だけど、社長が決めたから仕方ない”って言ってたんです。
会議では賛成してたのに、雰囲気がまるで違っていて……
その日の夜、フクロウ監査役は、帳簿をめくる手を止めて天井を見上げた。



発言の重みは、その場だけのものではない。
役職者は“どこで何を言ったか”ではなく、“何を信じて話しているか”を問われるのだ。
翌週の会議。別の議題でコウモリCFOが発言する。



この案には財務的なリスクも含まれています。ただ、全体としては賛成の立場です。
フクロウはその発言に、前回とは異なる“揺れ”を感じ取った。
コウモリの翼は、どちらにも傾けることができる――その柔軟さは時に強みだが、時に信頼を揺るがす。
会議後、フクロウはコウモリCFOに声をかけた。



発言のしかたひとつで、“一貫性”が問われるものだよ。
その言葉が、誰かの判断材料になる限り、ね。
コウモリは一瞬きょとんとした後、小さくうなずいた。



……はい。気をつけます。
その返事が“反省”か“無難な受け答え”か、フクロウにはすぐにはわからなかった。
だがその夜、彼は手帳にこう書き残していた。



言葉は風のように流れるが、
それを受け止める耳には、ずっと残るのだ。
■「会議では賛成、裏では批判」が生む信用の揺らぎ
意思決定に関与する立場の者が、会議と社長個人の前で異なる姿勢を見せることは、組織内に不信感を生み出します。
特にCFOのように財務戦略を担う役職者が「仕方なく従った」という態度を見せれば、会議体の正当性そのものが揺らぐ要因になります。
■ 発言責任は“その場”にとどまらない
「発言したか」だけでなく、「どこで、誰に、どう伝えたか」「整合性があったか」が、信頼に影響します。
裏と表で異なる顔を使い分けてしまうと、組織内の説明責任や、対外的な発言の一貫性にもズレが生じかねません。
■ 一貫性のない言動は“影響力の空洞化”を招く
役職者は、その言葉ひとつが部下や他の役員の意思決定に影響することを理解しなければなりません。
一貫性のない態度は、「あの人は本心で話していない」と見なされ、組織内での影響力や信頼を静かに失うことにもつながります。



