寓話で学ぶガバナンス|第5話『フクロウ監査役の眠れぬ夜』

【寓話で学ぶガバナンス】シリーズとは?
森の仲間たちが経営する「モリモリ商会」を舞台に、フクロウ監査役と共に“会社の気になること”を考えていくシリーズです。ガバナンスの知識を、物語のようにやさしく学べる内容です。

――この森の奥で、モリモリ商会が創業したのは、もう10年も前のこと。
今日もフクロウ監査役が、会社のあちこちで起こる“気になること”を見つけては、そっと耳をすませています。


キツネ社長

今期も好調だな。営業部門は前年比120%だそうだ

晴れやかな声で語るのは、キツネ社長。会議室には、リス取締役が満足そうにうなずき、イタチ取締役も無言で資料に目を通していた。

その空気に反し、フクロウ監査役の羽根は、ほんの少し震えていた。

フクロウ監査役

数字は、いい。報告も整っている。でも――


夜の見回り中、フクロウ監査役は、倉庫の裏で立ち話をするウサギ部長たちの声を耳にした。

ウサギ部長

今期の売上、ちょっと前倒ししすぎた気がするなぁ……

カワウソ主任

まぁまぁ、次期で調整すればいいって。帳尻さえ合えば平気でしょ?

その声に、フクロウ監査役はそっと視線を落とした。


フクロウ監査役

この“ズレ”を、どう捉えるかだ

翌朝の報告会でも、議題は「快進撃の要因分析」一色だった。誰も、在庫の積み増しや営業部の急なノルマ強化には触れない。

キツネ社長

フクロウ監査役、何かご意見は?

と尋ねられても、彼は静かにこう答えるだけだった。

フクロウ監査役

数字の裏に、何があるのか。それを考え続けるのが、私の役目です。確認事項は、追って個別にお伝えします


会議が終わった後。彼は、シカ取締役の元を訪れた。寡黙で知られるその取締役が、ぽつりと口を開いた。

シカ取締役

実は、部下から“数字の作り方”について相談があってね……

フクロウ監査役は、軽くうなずいた。

フクロウ監査役

やはり“気配”は、間違っていなかった

好調な数字の陰に潜む“無理”や“無言の圧力”。それらは、帳簿に記録される前に、どこかでにおいを放つ。

その夜もフクロウ監査役は眠れなかった。資料を前に、静かに独り言をつぶやく。

フクロウ監査役

業績が良いときこそ、目を凝らす必要がある。
本当に大切なのは、“うまくいっているように見える”ときに、誰も見ていないところを、誰かが見ておくことだ。

  

この話から学べること

「好調な数字」の裏にも、目を向ける

■ 数字に表れない“違和感”にこそ、監査役の出番がある
業績が好調なとき、人は「良い兆し」ばかりに注目しがちです。しかし、営業ノルマの過重設定、過度な前倒し出荷、返品リスクの無視など、数字の“裏側”では無理や歪みが生じていることもあります。こうした兆候は、往々にして会議資料や報告書には現れません。

■ “現場の声”と“経営の空気”を読む力
今回のように、倉庫裏の会話や、発言されない沈黙、表情の変化といった「定量化されない情報」にこそ、初期の兆しが宿ります。監査役は、制度的に与えられた調査権限だけでなく、“感度高く違和感を拾い上げる力”が求められる存在です。

■ リスクは「赤字」よりも「慢心の黒字」に潜むことも
黒字の陰で起こる不正や粉飾の兆候は、発見が遅れがちです。だからこそ、業績好調期こそ、緊張感をもって「なぜ今、これほど数字が伸びているのか?」を冷静に問い直す視点が必要です。

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