【寓話で学ぶガバナンス】シリーズとは?
森の仲間たちが経営する「モリモリ商会」を舞台に、フクロウ監査役と共に“会社の気になること”を考えていくシリーズです。ガバナンスの知識を、物語のようにやさしく学べる内容です。
――この森の奥で、モリモリ商会が創業したのは、もう10年も前のこと。
今日もフクロウ監査役が、会社のあちこちで起こる“気になること”を見つけては、そっと耳をすませています。

では以上で本日の会議を終了します!
キツネ社長の合図とともに、会議室にわずかな安堵の空気が流れた。
この日の議題は、新規プロジェクトの進捗と来季の人員配置、それに全社会議の準備。
だが、実際には――



それは、また今度詳しく詰めましょう



そうですね、ひとまず方向性だけ確認しておけば…
そんな言葉が交わされるばかりで、具体的な意見や反論が出ることはなかった。
時間だけが過ぎ、結論はあいまいなまま、会議は静かに終わった。
数日後。



できました!今回の議事録です!
リス取締役が明るい声で差し出した書類には、見事に整った文章が並んでいた。
要点がびっしり。関係者の発言も明快に記されている。
まるで、建設的で活発な議論が交わされたかのように。



……これ、本当に、あの会議の記録?
カメ副社長がぽつりとつぶやく。
ヒツジくんは目を細め、しばらく黙ってから言った。



なんだか…うまくできすぎてて、ちょっと気味が悪いです
その夜、フクロウ監査役がリスのもとを訪れた。



立派な議事録だった。けれど、“実際の場”と少し違ってはいなかったかい?
リスは机の上でペンを止めた。
そして、少しうつむきながら答えた。



……“形”を整えるのが、私の役目だと思ってました。でも、確かに…あの日の空気は、どこにも残ってないですね



議事録とは、ただの記録じゃない。“その会議がどうだったか”という記憶の手がかりなのだよ。
発言内容だけでなく、空気や温度も、時にはにじみ出てしまうものなのさ。



でも、そんなふわっとしたものをどうやって書けば…



書こうとしなくてもいい。
ただ、なかったことにしようとしないこと。
それだけで、議事録は、きっと会社の未来を守る武器になる。
数日後の議事録には、「意見が出ず、結論に至らなかった項目がある」ことや、「次回に持ち越された議題」がそのまま書かれていた。
誰もそれに異議を唱えることはなかったが、その次の会議室には、わずかに“本気の空気”が戻っていた。
実態を映さない“整いすぎた議事録”にご注意を
■ 議事録は“会社の記憶”である
議事録は単なる記録文書ではなく、会議の意思決定プロセスを将来に残す「会社の記憶」です。
実際の議論が乏しいのに、きれいに整った議事録を残してしまうと、「問題提起がなかったこと」や「反論がなかったこと」として、将来のリスク検証を困難にします。
■ 議事録に“温度”がにじみ出ることもある
たとえば「意見が出ず結論に至らなかった」ことも、立派な事実です。
“反応が薄かった”“議題が消化不良だった”といった空気感を、婉曲でも構わないので残しておくことが、健全なガバナンスの第一歩となります。
■ “整っていればよい”という誤解に陥らないために
多くの会議体では、議事録を作成する取締役や事務局が「形として整えること」を目的にしがちです。
しかし、本来の役割は「実態を忠実に残すこと」。
整っていることが目的ではなく、「会社として説明責任を果たせる状態」をつくることが本質です。
■ 監査役が気づくべき“違和感”
監査役としては、
「発言が乏しかったはずなのに、活発な議論があったように記されている」
「全会一致でスムーズに決まったとされているが、現場の納得感が薄い」
といった“記録と実感のズレ”に敏感になることが重要です。
そうした違和感の察知こそ、現場を見ている監査役ならではの武器です。



