【寓話で学ぶガバナンス】シリーズとは?
森の仲間たちが経営する「モリモリ商会」を舞台に、フクロウ監査役と共に“会社の気になること”を考えていくシリーズです。ガバナンスの知識を、物語のようにやさしく学べる内容です。
――この森の奥で、モリモリ商会が創業したのは、もう10年も前のこと。
今日もフクロウ監査役が、会社のあちこちで起こる“気になること”を見つけては、そっと耳をすませています。

では、今月の取締役会を始めます
カメ副社長の合図とともに、木の会議室に静けさが広がった。



今期の広告戦略ですが、わたしの案はこうです
キツネ社長が得意げにスライドをめくると、イタチ取締役が身を乗り出して口を開いた。



さすがキツネさん! いや、社長! 素晴らしい案ですね。まったく異論ありません!
その瞬間、リス取締役は小さく目を見開いた。
資料の中にある広告費の急増が、どうにも気になっていたのだ。



えっと……広告費が前年の倍近くに……
思わず声を出しかけたが、イタチ取締役が大きくうなずく様子に、言葉が喉で止まってしまった。



みんなも同意見だよね?
キツネ社長が視線を送ると、会議室に曖昧な笑顔が並ぶ。
取締役会はそのまま終了し、森の木々に夕暮れの影が落ちた。
その帰り道。リス取締役は木の階段を降りながら、小さくため息をついた。



違和感、あったよね
その声に応えるように、どこからか静かな羽音が聞こえてきた。
フクロウ監査役が、枝からふわりと舞い降りる。



君が気づいたこと、言ってみたらよかったのに



でも……イタチさんって、社長の古い友人ですよね? あんなに信頼し合ってるなら、わたしが異議を挟むのもどうかと……
フクロウはくちばしの先でメガネを整えるようにして、ゆっくりと話した。



信頼は大切だが、それが“忖度”に変わったとき、健全な議論は死んでしまう。取締役の役目は、社長に従うことではなく、会社の未来に責任を持つことだよ



……はい
リスはうなずきながらも、まだどこか迷いが残っている様子だった。
するとフクロウは、ぽつりと付け加えた。



沈黙も、意思表示のひとつなのだ。
けれど、会社の舵取りに関わる者なら、黙っていていい場面と、声を上げるべき場面の違いを、見極めなくてはならない
その夜、リス取締役は一人、木の上の執務室で、もう一度あの広告戦略の資料を開いていた。



気になるなら、ちゃんと聞いてみよう。わたしの疑問は、きっと無意味じゃない
静かな夜の森に、1ページをめくる音だけが響いていた。
■形式的な独立性より、“実質的な距離感”が重要
取締役に「社長の親友」や「元部下」が就任している場合、形式的には独立性を満たしていても、実質的には機能不全に陥るリスクがあります。
社長の顔色をうかがう発言ばかりが並ぶ会議は、形だけの“追認機関”になりかねません。
■同調圧力が“沈黙の支配”を生む
本来、会議の場は多様な意見が出ることで、経営の盲点やリスクを可視化する機能を持ちます。
しかし、あるメンバーの発言力が過度に強いと、「言いにくさ」が“沈黙”を生み、思考停止に繋がることも。
特に若手取締役や社外メンバーは、意見を述べるハードルが高いため、会議運営側の工夫も必要です。
■監査役としての視点
監査役は、取締役の構成や発言バランスに注意を向けるべき立場です。
「意思決定の場に、多様な視点が生きているか」「特定の関係性が意思決定を支配していないか」など、表に見えにくい力学の“兆し”を見抜く目が求められます。



