寓話で学ぶガバナンス|第3話『キツネ社長と“おともだち取締役”』

【寓話で学ぶガバナンス】シリーズとは?
森の仲間たちが経営する「モリモリ商会」を舞台に、フクロウ監査役と共に“会社の気になること”を考えていくシリーズです。ガバナンスの知識を、物語のようにやさしく学べる内容です。

――この森の奥で、モリモリ商会が創業したのは、もう10年も前のこと。
今日もフクロウ監査役が、会社のあちこちで起こる“気になること”を見つけては、そっと耳をすませています。


カメ副社長

では、今月の取締役会を始めます

カメ副社長の合図とともに、木の会議室に静けさが広がった。

キツネ社長

今期の広告戦略ですが、わたしの案はこうです


キツネ社長が得意げにスライドをめくると、イタチ取締役が身を乗り出して口を開いた。

イタチ取締役

さすがキツネさん! いや、社長! 素晴らしい案ですね。まったく異論ありません!

その瞬間、リス取締役は小さく目を見開いた。
資料の中にある広告費の急増が、どうにも気になっていたのだ。

リス取締役

えっと……広告費が前年の倍近くに……

思わず声を出しかけたが、イタチ取締役が大きくうなずく様子に、言葉が喉で止まってしまった。

キツネ社長

みんなも同意見だよね?

キツネ社長が視線を送ると、会議室に曖昧な笑顔が並ぶ。

取締役会はそのまま終了し、森の木々に夕暮れの影が落ちた。


その帰り道。リス取締役は木の階段を降りながら、小さくため息をついた。

フクロウ監査役

違和感、あったよね

その声に応えるように、どこからか静かな羽音が聞こえてきた。
フクロウ監査役が、枝からふわりと舞い降りる。

フクロウ監査役

君が気づいたこと、言ってみたらよかったのに

リス取締役

でも……イタチさんって、社長の古い友人ですよね? あんなに信頼し合ってるなら、わたしが異議を挟むのもどうかと……

フクロウはくちばしの先でメガネを整えるようにして、ゆっくりと話した。

フクロウ監査役

信頼は大切だが、それが“忖度”に変わったとき、健全な議論は死んでしまう。取締役の役目は、社長に従うことではなく、会社の未来に責任を持つことだよ

リス取締役

……はい

リスはうなずきながらも、まだどこか迷いが残っている様子だった。

するとフクロウは、ぽつりと付け加えた。

フクロウ監査役

沈黙も、意思表示のひとつなのだ。
けれど、会社の舵取りに関わる者なら、黙っていていい場面と、声を上げるべき場面の違いを、見極めなくてはならない


その夜、リス取締役は一人、木の上の執務室で、もう一度あの広告戦略の資料を開いていた。

リス取締役

気になるなら、ちゃんと聞いてみよう。わたしの疑問は、きっと無意味じゃない

静かな夜の森に、1ページをめくる音だけが響いていた。

この話から学べること

形式的な独立性より、“実質的な距離感”が重要

取締役に「社長の親友」や「元部下」が就任している場合、形式的には独立性を満たしていても、実質的には機能不全に陥るリスクがあります。
社長の顔色をうかがう発言ばかりが並ぶ会議は、形だけの“追認機関”になりかねません。

同調圧力が“沈黙の支配”を生む

本来、会議の場は多様な意見が出ることで、経営の盲点やリスクを可視化する機能を持ちます。
しかし、あるメンバーの発言力が過度に強いと、「言いにくさ」が“沈黙”を生み、思考停止に繋がることも。
特に若手取締役や社外メンバーは、意見を述べるハードルが高いため、会議運営側の工夫も必要です。

監査役としての視点

監査役は、取締役の構成や発言バランスに注意を向けるべき立場です。
「意思決定の場に、多様な視点が生きているか」「特定の関係性が意思決定を支配していないか」など、表に見えにくい力学の“兆し”を見抜く目が求められます。

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