【寓話で学ぶガバナンス】シリーズとは?
森の仲間たちが経営する「モリモリ商会」を舞台に、フクロウ監査役と共に“会社の気になること”を考えていくシリーズです。ガバナンスの知識を、物語のようにやさしく学べる内容です。
――この森の奥で、モリモリ商会が創業したのは、もう10年も前のこと。
今日もフクロウ監査役が、会社のあちこちで起こる“気になること”を見つけては、そっと耳をすませています。

それでは、議題2。“特に異論なし”ということでよろしいかな?
キツネ社長が声をかけると、会議室には静寂が戻った。
数秒後、誰かが小さく「はい」とつぶやき、それで次の議題へと進んでいく。



……次は、売上報告か
サル常務が資料をめくりながら、数字を読み上げる。



順調です
そう一言添えると、報告は終わった。



ほかにご意見は?
シカ取締役は、黙ったまま前脚を揃えて座っている。誰も何も言わない。何も変わらない。



みんな、ちゃんとこの会議を“使って”いるのだろうか?
フクロウ監査役は、静かに眼鏡を押し上げた。
そのとき――



フクロウさん、会議どうでした?
廊下で声をかけてきたのは、物流のカワウソ主任だった。



ん? まぁ、いつも通りだったよ。議題は全部、異論なしで通った



そっか……。あの、昨日、棚卸でミスが出まして……
報告書、上には届いてると思うんですけど



うむ、見かけたよ。掲示板に貼ってあった赤い紙だね



実は……今年に入って、もう3件目なんです。現場も少し混乱してて……
フクロウは、足を止めた。



……なぜそれを、会議で報告しないのだろう?



え? いや……
なんとなく、もう“会議で話す感じじゃない”っていうか…
カワウソ主任の声は、どこか遠慮がちだった。
その夜、フクロウは会議室のイスたちを見つめていた。
整然と並んだ椅子たちは、どれも立派で、よく磨かれている。
しかし、その椅子に“本当の声”が届いているのだろうか?
それとも、ただの飾りになってはいないか? フクロウは、静かにまぶたを閉じた。
“何も起きない取締役会”が続いていたら、それはひとつの危険信号かもしれません。
現場でトラブルが起きているのに、会議では誰も触れず、すべての議案が「異論なし」で通過する――
これは、取締役会が“形だけの場”になりつつある兆候です。
本来、取締役会は「報告を受ける場」ではなく、対話と検証によって意思決定の質を高める場であるべきです。
にもかかわらず、
- 発言しにくい空気
- 報告すべき情報が上がってこない構造
- 「通過儀礼」と化した議事運営
といった状態が常態化しているなら、そこには組織的なガバナンス不全が潜んでいる可能性があります。
特に、現場との距離が広がった組織では、“会議に上がってこない声”の中に真のリスクが眠っています。
監査役・社外役員・経営陣が果たすべきは、「何も言わない=問題がない」と捉えず、“沈黙”の背後にある構造に目を向ける姿勢なのです。